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福島県棚倉町字寺山

この地の創徳寺には、古くから化け猫の伝説が伝えられている。

むかし、この寺に1匹の老猫が住み着き、その猫はトラと名づけられた。村人達は、「猫には魔性がある」と和尚さんに忠告したが、和尚さんはそんなことは気にせずにトラを飼っていた。

ある年の冬、この地の田んぼに、しばしばあやしい火が灯り、村人の間では狐の嫁入りだと噂になった。それは毎晩のように続き、村の若者が、その正体を見定めようと、そのあやしい火の近くまでそっと近づいていった。するとそこには、たくさんの獣達が集まり、かがり火をたき、飲めや歌えやの大騒ぎをしていた。「双の平の夜の森、集まる古猫古きつね、どんどこぢゃんの踊りの輪、創徳寺のトラさん来なければ、根っから調子がそろわねい、ガッチャカチャーガッチャカチャー」

そこには、この地でも名のある獣達がいた。大将は米山下の与次郎猫、上台の権吉狐、赤館山のどら猫、寺山のこんこん狐、関口のポン助狸、流田んぼの尻振り狐などで、なんとその総大将は創徳寺のトラだった。騒ぎはその後も毎晩続き、村人達は恐ろしくて誰も騒ぎを止められず、ろくろく夜も眠られず困っていた。

創徳寺の和尚は、あるときトラを呼びつけて説教をしたがトラはそ知らぬふりだった。怒った和尚はトラを殴りつけた。トラは恐ろしい形相で和尚をにらみつけると寺を飛び出しそのまま姿を見せなくなった。

和尚は用心して、トラが襲ってきても十分戦えるように寝床を広い本堂に移し、寝床には竹を束ねて布団をかぶせ、自分は槍を手にして柱の陰に隠れて身を休めた。

ある晩、案の定トラが現れ和尚の寝床を襲った。寝床の竹の束をかみついたトラは一瞬ひるみ、和尚はその隙をついて槍でトラを一突きにした。深傷を負ったトラはそのまま寺を逃げ去り、その後二度と現れなくなった。毎晩行われていた獣たちの騒ぎもなくなった。

それから十年後、創徳寺の建替えが行われたとき、本堂の下から猫の骨が出てきた。和尚はトラの亡骸をねんごろに弔ったと云う。