福島県いわき市久之浜田之網字横内

震災前取材

 

波立(はったち)海岸は、福島県いわき市の太平洋岸を南北に走る国道6号線の四倉と久ノ浜の間に位置する。日の出の名所として有名で、弁天島付近からの日の出は絶景である。

この波立海岸には、次のような伝説が伝えられている。

 

・ワニザメの話

むかし、波立海岸の近くに一人のお坊さんが住んでいた。お坊さんには娘が一人おり、その娘をそれはそれは大事に育てていた。

ある日のこと、この娘が海岸で遊んでいると、海の中から巨大なワニザメが突然あらわれて、この娘を飲み込んでしまった。これを見た村人がすぐにお坊さんのもとへ走りこのことを知らせた。

驚いたお坊さんは、すぐに海岸に駆けつけたが、すでに娘の姿もワニザメの姿もなかった。それでもしばらく探し続けていると、岩の間に流れ着いていた娘の着物の切れ端を見つけた。

お坊さんは大層悲しんだ。その悲しみは、日がたつとともにワニザメへの怒りに変わっていった。お坊さんは娘の仇を討とうとワニザメをさがしまわった。幾日かして、海面を悠々と泳ぐ巨大なワニザメを見つけた。お坊さんはすぐに寺に帰り、用意していた毒を矢に塗り、弓を引っさげ海岸に取って返し、ワニザメめがけて渾身の力で矢をはなった。

毒矢は見事にワニザメに命中した。ワニザメは苦しみにもだえ、海面は朱に染まり、大風が吹き荒れ大波が荒れ狂い、弁天島に打ち寄せた波は水しぶきとなり、島全体を覆った。ワニザメはもだえながら海中に沈んでいった。

娘の仇はとったものの、その命が戻ってくるはずもなく、お坊さんは娘の供養のために旅に出て、その旅先で亡くなったという。