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宮城県仙台市青葉区作並字薬師前

  国道48号線を作並温泉に向かう途中、国道から南に折れた位置にある岩谷堂の集落に穴薬師如来が祀られている。岩山の中腹に、横約6.4m、縦約6.8m、奥行き約3.0mに岩を穿った洞窟の中に本尊である薬師瑠璃如来の木像が祀られている。 この穴薬師には以下のような、哀れな叔父と姪の物語が伝えられている。 その昔、この集落のある家に、両親と姉弟と若い男が暮らしていた。若い男はこの家の主人の弟にあたり、この家の娘とは、叔父と姪の間柄だった。しかしこの男と娘はいつしか恋におち、兄である娘の父親に、娘を妻にすることを懇願した。父親はこれを断ったが、男は諦めきれず幾度も懇願した。父親はこの弟に、「山の岩肌に、御薬師様を祀る岩屋を穿つ程の一念がお前にあるなら娘との結婚を許す」と難題をもちかけた。 男はあきらめることなく岩壁に挑み、一心不乱につるはしを振り続け、血と汗の忍従の三年が過ぎ、やがて薬師如来を安置する洞窟の完成も間近になった。頑くなだった父親もこの弟の姿を見て、ついに二人の結婚を許した。まもなく娘は懐妊し、子供が生まれるのを楽しみにしていたが、妻は難産の末に、ついに死んでしまった。 男は深く悲しみ、妻の供養と、後の世の人々に同じ悲しみをさせてはてはならないとの思いで、先に岩壁に穿った洞窟の上の岩壁に薬師如来像をただ一途に念じながら彫り始めた。雨の日も風の日も彫り続け、その姿はまるで神の化身とも見える姿だったという。七年の歳月が流れ「難産に死ぬ人なかれ」との悲願をこめて遂に彫り終え、完成したその日、いとしい妻と子のもとへと旅立った。それからは、この集落では、難産に苦しみ死ぬ人はなくなったという。 後に、この夫婦は薬師如来が仮の姿であったのではと伝えられ、今でも生涯変らぬ恋を神にかけた男女の参詣があると云う。