岩手県遠野市土淵町土淵6地割

2014/05/09取材

 

この地の北方約20kmに位置する早池峰山は、古来から人々の信仰の対象とされていた。その登山道は険しく獣道も続き、幾多の難行が待っていたにもかかわらず、多くの参拝者が訪れたと云う。古参道入口の鳥居は、長く風雨に晒され、傾いてなお路傍にしっかりと構え、早池峰信仰を象徴する光景となっている。

早池峰信仰についてはこの地では、大同元年(806)来内村(現在の遠野市上郷町)の猟師「四角藤蔵」が、クマを追って早池峰山に分け入り、山頂で十一面観音に出合い、ほこらを建立したのが始まりと伝えられる。

この地の真北に薬師岳があり、その真後が早池峰山であり、早池峰山から流れ出る水は遠野盆地を潤し、早池峯山の上には北極星が輝く、山岳信仰の原型を見ることができる。古くから、死によって肉体は滅んでも霊魂は決して滅ぶことなく、死後肉体をさった霊魂は、一旦里に近い山に集まり、そこから本山に向かい天に上ったと云う。祖先の霊は年月を経る事によってやがて神になり、子孫を見守ってくれるものと信じられてきた。

この山岳信仰の下で、山伏は修行をつみ、霊感による呪力を身につけ、村びとの依頼に応じてその病苦や災難を解くための祈祷をした。出産のさいは安産を、病気がちの子には取り子名をつけて無事を祈り、15歳になった男子の遠野三山へのお山がけの先達をつとめ、女子の帯解きの日には息災の祈祷、結婚にあたっては夫婦和合の符を与えるなど、病気、厄年、死後のお祓いと、人の一生の通過儀礼や年中行事と深いかかわりあいをもっていた。

この地の古参道入口の鳥居は、その信仰の象徴的なものと言える。