岩手県花巻市矢沢第3地割

2012/09/08取材

 

さて、胡四王山という山は、花巻市街の中心部から北西4kmほどの位置にある、北上川東岸の小さな丘である。北上山地の北上川流域平野への突出先端部にあたる。この山には胡四王神社があり、昔から「薬師さん」と呼ばれ、健康を祈願した処で、古くから信仰を集めていた地である。

花巻の街からは、だいたいどこからでもこの山の姿を見ることができ、山頂にある数本の大きな杉の木が、まるで鶏のトサカのようにも見え、ひときわ目立つ形をしている。

宮沢賢治はこの山をこよなく愛し、少年時代からたびたび登っては周囲の風光にひたり、樹の下で瞑想に耽ったと云う。賢治18歳の作品に次の短歌がある。

山上の 木にかこまれし 神楽殿 鳥どよみなけば われかなしむも

賢治が盛岡中学を卒業してまもなく、約40日間盛岡の岩手病院に入院した時に、若い看護婦に想いを寄せて詠んだとされる。北はずれにあった神楽殿あたりまで登っては、恋慕の思いに悩んでいたという。法華経信者だった賢治は、この山を「経埋ムベキ山」のひとつに入れている。