岩手県岩手町土川
2017/05/13取材
岩手県を代表する山として岩手山があり、その東側に向き合うように姫神山がある。岩手山の山容は荒々しく、姫神山の山容はなだらかである。その山容と位置から、古くから岩手山を男神、姫神山を女神とし、多くの伝説が伝えられている。それらの伝説の中に、この地の送仙山が出て来る。
岩手山は南部富士とも呼ばれ、力持ちで男ぶりもよく、器量の良い働き者の姫神山と結婚し、仲睦まじく寄り添って暮らしていた。ところが岩手山は、日本一の山になるためには、もっときれいな女性と結婚しなければならないと考え、早池峰山を側室にした。
これを知った姫神山は悔しくてたまらず、怒り、やきもちをやき、岩手山の不実を毎日なじった。それに耐えかねた岩手山は、理不尽にも姫神山を追い出すことにした。岩手山は家来の送仙(おくりせん)山に「姫神を俺の目の届かない所に連れて行け」と命令した。そして、「もし命令に叛いたなら、お前の首はないものと思え」と激しくいいつけた。
送仙山は姫神山に、世の儚さを説き、遠くに連れて行こうとしたが、姫神山は身のよりどころがない悲しさを涙ながらに訴えた。送仙山も同情してしまい、それでも何とか北上川を挟んで少し隔てただけの場所に連れていき姫神山を座らせた。
翌朝、岩手山が目を覚まし辺りを見回すと、姫神山がさほど離れていない場所に座っているのに気がついた。これを見た岩手山は激怒し、大地を揺るがし、目を真っ赤に光らせ、口から火を噴き、怒りの炎は溶岩となって大地を覆った。そして送仙山を呼び出し、その首を斬り落としてしまった。
送仙山の山頂が平らなのはこのためと言われており、斬られた首は、岩手山を睨みつけ南の方へ飛んでいき、岩手山の稜線上の鞍掛山になったと云う。
その後、岩手山、姫神山、早池峰山の三山が「同時に見えることはない」と言われており、また、登山をする時は、三山のうち二山を同じ日に登ってはいけないとも伝えられている。