岩手県遠野市土淵町字土淵

震災前取材

  • カッパ淵
常堅寺の本堂の裏手にこのカッパ淵はある。

昔、足洗川のほとりに、安倍貞任の子孫が住んでいた。ある日、安倍家の者が少し目を離したすきに、足洗川の淵からカッパが出てきて馬を淵に引き込もうとした。驚いた馬は、そのカッパを引きずったまま、うまやに入ってしまった。

うまやがなにやら騒がしいので、家中のものが何事かと行ってみると、飼い葉桶が逆さになって地面に落ちていた。不思議に思いそれをひっくり返して見ると、カッパが中に隠れていた。安倍家の男たちが大勢集まりカッパを打ち殺そうとしたが、カッパは盛んに命乞いをする。家の主人は、「二度といたずらはしない」という証文をカッパに書かせ、許してやった。それ以来、カッパのいたずらはなくなったため、主人は川のそばに堂を建てて祀ったという。

このカッパ神は、その後いつの頃からか、乳が出ない母親に信仰されるようになり、子持ちの女性が乳が出るようにと願をかけるとかなうといわれ、願かけには、赤い布で乳の形を作り、この祠に納めるのが習いになった伝えられる。

またこの地の常堅寺が火事になったとき、この淵のカッパが頭の皿から水を噴出し、火を消し止めたという。このため、寺の住職は感謝し、カッパの頭を持った狛犬をつくり境内に置き、寺の守りにしたと云う。