岩手県雫石町西根北妻

2013/04/28取材

昔、この山は、松や柏、杉が鬱蒼と生い茂る昼なお暗い深い森だった。この森の、物音ひとつしないしじまの中から、時折、妙なる笛の音のような、深い澄んだ音が聞こえるという話が、里人らの間でささやかれるようになった。

ある日、里に住む柴を刈る翁が、不思議なその音を聞き、その音をたどると、一際大きくそびえたつ老杉を見つけた。そしてその杉の根元には、そこも知れない洞窟があり、その中の銚子に似た口先から滴り落ちる清水が下の石にあたり、「たんたん」と滴の音が洞内に共鳴し、森の静寂の中に響き渡っていた。

人々はこれを水神様として祀り、親しみをこめて「滴石たんたん」と呼び、この地は「滴石」と呼ばれるようになった。

今もその大杉は天空に聳え、根元の洞窟もその姿を残している。銚子の口は今はないが、清水は今も湧き出し、伝説を今に伝えている。