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東北地方に広く伝えられる「三湖伝説」の主役が、八郎潟の主の八ノ太郎(八郎太郎)である。その生地伝説は、秋田県鹿角市と青森県八戸市とするものなどがあるが、鹿角市の伝説は、錦木伝説との重複もみられる。

八戸の伝説は以下の通りである

現在、八太郎ヶ丘公園のある八太郎山は、義経北行伝説の地の一つであり、5月頃から夜になると蛍が多く飛び交い、義経はこれを見て大層面白く思い、八太郎山一帯を「ほたるヶ崎」と名付けたと伝えられる。かつて、この八太郎山の周辺は、湿地帯と大小の湖沼が海まで続いていた。八太郎山の北側に近年まで、八ノ太郎生誕にかかわる八太郎沼があったが、現在一帯は工業地帯になり、埋め立てられて沼はない。

昔、十日市にお藤という美しい娘が住んでいた。村の若者たちはお藤に惹かれ、言い寄る者も多かったが、お藤は相手にしなかった。ある日、垣根の外に一人の若者が現れた。この若者は何度となく訪れ、熱心に妻になってくれるように口説いた。お藤は初めは素知らぬふりをしていたが、その熱心さに心を惹かれ妻となった。しばらくしてお藤は、この若者の子を身ごもった。

若者はお藤に対して優しく接してくれていたが、自分のことを多く語ろうとはしなかった。お藤は思い切って若者の住まいや出身を尋ねた。最初は若者は「勘弁してほしい」と言っていたが、お藤が泣いて取りすがり頼むので、ついに拒むことができなくなった。

若者は、「もはやこれまでか、私は八太郎沼の主である」といった瞬間、たちまち、十丈をこえる大蛇となり、「生まれる子には八ノ太郎と名付けよ」と言い置いて、黒雲に打ち乗り、新井田川を下り八太郎沼へ飛び去って行った。

月満ちて、お藤は男の子を生み、八ノ太郎と名付けた。八ノ太郎は、生まれて間もないのに体も大きく、すでに歯は生え揃っていた。八ノ太郎はスクスクと成長し、力強く逞しい、そして優しい若者に成長した。

鹿角市の伝承では、八郎太郎の生誕について、次のように伝える。

八郎太郎はこの鹿角の草木で生まれた。八郎太郎は、村の娘と旅の男との間にできた子で、母親は難産で死んでしまい、父親は寒風山で竜に姿を変えて消えたと云う。このため八郎太郎は祖父母に育てられた。八郎太郎はすくすくと育ち、気が優しい力持ちの大男に育った。

ある日八郎太郎は、二人の仲間とともに山をいくつもこえて、奥入瀬の渓谷へ入った。三人は流れの近くに小屋をつくり、そこに泊まって山仕事をすることになった。その日は八郎が食事の支度をすることになり、仲間の二人を見送って川へ水をくみにいくと、数匹のイワナが泳いでいる。三人で食べようとイワナを三匹捕まえて、小屋で焼いた。

仲間の帰るのを待っていたが、二人はなかなか帰ってこない。八郎太郎はうまそうな匂いに我慢が出来なくなり、三匹残らず食べてしまった。すると、どうしたことか、急にのどが渇いてきたので手おけの水を飲んだ。それでものどの渇きは収まらずがぶがぶ飲んだ。しかし飲めば飲むほど乾きはひどくなった。八郎太郎はうめき声をあげながら、谷川のそばへ駆けて行き、腹ばいになって身をのりだし、奥入瀬川の水を夢中になって飲んだ。

何時間飲み続けただろうか、顔をあげると、辺りは夕ぐれの色に包まれていた。立ち上がろうとしたとき、水面に恐ろしい何かが映っていた。よく見ると、それは、目がらんらんと輝き、ロが耳までさけた竜の顔ではないか。それは竜になってしまった八郎太郎自身の姿だった。

そこへ二人の仲間が八郎太郎の名前を呼びながら探しにきた。二人は竜の姿になった八郎太郎を見ると、慌てて逃げ出そうとした。八郎太郎は悲しげな声で二人を呼びとめ、「俺は、こんな恐ろしい姿になってしまい、もう、一時も水から離れることができなくなった。この辺に湖をつくりそこで暮らそうと思う。どうか家へ帰ったら、そう話してくれ、」そういい終わると八郎太郎は大きな声で泣いた。その恐ろしくも悲しげな泣き声は、周りの山々に響き、何十里も遠くまで聞こえたという。

八郎太郎は、奥入瀬の渓流をさかのぼり、体をくねらせながら山々の谷川をせき止め十和田山中に湖を作り、そこの主として住むようになった。
その後、八郎太郎は、十和田湖の主の座をめぐり、南祖坊と激烈な戦いをし、ついに敗れて八郎潟に逃れ、その主になったとされる。

この伝承に出てくる、「獲った魚を仲間の分まで食べてしまった」のくだりは、田沢湖の辰子姫伝承でも使われており、また他の地方各所の龍伝説の中でも使われており、修験者たちによって各地に広められた仏教説話の内の一つと考えられる。そう考えると、十和田湖をめぐる八郎太郎と南祖坊との争いは、十和田湖周辺の噴火を背景にした、山岳宗教の宗派間の抗争とも考えられる。

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