岩手県九戸村

2016/09/27取材

別名:江刺家岳

折爪岳は、岩手県の二戸市、軽米町、九戸村を山域に持つ、標高852.2mの山である。九戸村付近では江刺家岳とも呼ばれ、山麓は、広い草場がひらけ、牛や馬の牧場になっていたと言われている。

この山には、次のような伝説が伝えられている。

ある夏の日、牛番の若者が、夕暮れになったので帰ろうとしたとき、薮の中にピカッと光る物に気づいた。「なんだべや」 と驚いている若者の前に、大きな目玉の生き物が、ガサガサと薮から姿を現し、ピョン、ピョン と跳びながら近づいて来た。

その胴の太さは二升樽ぐらい、フクロウのような目玉の顔と下半分は人間みたいな2本足の怪鳥だった。若者は「こんな不思議なもの、鳥だべか、人間だべか」と心の中でチラッと思った。すると、その怪鳥も「こんな不思議なもの、鳥だべか、人間だべかと思っているな」と、その後で「ドデン、ドデン」と叫んだ。

若者は自分の心を読まれびっくりドデンし「おっかね、おっかね」と、名主の所まで逃げ帰って来た。しかし怪鳥は、大きな声で「おっかねぐねーぞ、ドデンドデン」と、あとからピョン、ピョン跳ねてついて来た。

その怪鳥を見た名主もびっくりドデンし、「なんだこれは」と尋ねた。若者は「オ、オドデさまです」と答えた。「ふうん・・・オドデさま」とうなづいた名主は、そのあとで「うーん、これは見世物に売ったら、えらい金儲けになるかも知れん」とチラッと思った。

するとオドデ様はすぐに「これこれ名主、今おらを見世物さ売ったならば、金儲けになると思ったな、ドデンドデン」と、まるで手のうちを見透かすように言った。名主はおどろき「これはたまげた、口も聞ければ、人の心も読む、神様に祀りますのでどうかご勘弁を」と謝り、さっそく神棚にオドデさまをお祀りした。

この話は村中にすぐに広がり、村の人たちは一目拝みたいものと集まってきた。オドデ様は神棚の上で人々を前にし、「あしたの朝は晴れるドデンドデン」と言った。するとその通り、翌朝は雲一つない日本晴れになった。「では、晩方はどうであんすべが」とおそるおそる伺いを立てると「晩方は雨、ドデンドデン」と答えると、夕方にはオドデ様の言う通り雨がザァーザァーと降った。

これなら占いもできるだろうと、名主は立て札を立て、紋付き羽織り袴姿で、新しくつくった賽銭箱の横にどっかりと座った。占いがあまりにもぴたりと当たるので、賽銭箱はすぐに一杯になり、大繁盛となった。欲が深い名主は賽銭料を値上げし、今度は大きな賽銭箱を用意し、ジャランジャランとお賽銭を鳴らしては、ほくほく顔だった。

ところが、その銭音を聞いて、天井ばかり見上げていたオドデ様は、珍しく下を見下ろし、賽銭箱を抱えた名主の前にはいつくばっていいる参詣人を見て、「シランシラ ン、ドデンドデン」と叫びながら、折爪岳の方に飛び去ってしまった。名主は「おらの銭箱がにげるー、オドデ様が飛んでいくー」と追いかけたが、もうその時は、オドデ様は森の向こうに見えなくなってしまった。

オドデ様は飛び跳ねて、牛番をしている若者の所まで来ると「お前はええ奴じゃ、お前におらの不思議を授けてやる、ドデンドデン」と言ったかと思うと、若者の前で石になってしまった。

欲のない若者は不思議な力をもらっても、そのまま一生牛番で通し、一度も不思議の力を試す事はなかった。今でも折爪岳の奥深くから、オドデさまらしき声が聞こえる言われている。

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