スポンサーリンク

折爪岳は、岩手県の二戸市、軽米町、九戸村を山域に持つ、標高852.2mの山である。九戸村付近では江刺家岳とも呼ばれ、かつて山麓は、広い草場がひらけ、牛や馬の牧場になっていたと言われている。

この山には、次のような伝説が伝えられている。
ある夏の日、牛番の若者が、夕暮れになったので帰ろうとしたとき、薮の中にピカッと光る物に気づいた。「なんだべや」 と驚いている若者の前に、大きな目玉の生き物が、ガサガサと薮から姿を現し、ピョン、ピョン と跳びながら近づいて来た。

その胴の太さは二升樽ぐらい、フクロウのような目玉の顔と下半分は人間みたいな2本足の怪鳥だった。若者は「こんな不思議なもの、鳥だべか、人間だべか」と心の中でチラッと思った。すると、その怪鳥も「こんな不思議なもの、鳥だべか、人間だべかと思っているな」と、その後で「ドデン、ドデン」と叫んだ。
若者は自分の心を読まれびっくりドデンし「おっかね、おっかね」と、名主の所まで逃げ帰って来た。しかし怪鳥は、大きな声で「おっかねぐねーぞ、ドデンドデン」と、あとからピョン、ピョン跳ねてついて来た。

その怪鳥を見た名主もびっくりドデンし、「なんだこれは」と尋ねた。若者は「オ、オドデさまです」と答えた。「ふうん・・・オドデさま」とうなづいた名主は、そのあとで「うーん、これは見世物に売ったら、えらい金儲けになるかも知れん」とチラッと思った。
するとオドデ様はすぐに「これこれ名主、今おらを見世物さ売ったならば、金儲けになると思ったな、ドデンドデン」と、まるで手のうちを見透かすように言った。名主はおどろき「これはたまげた、口も聞ければ、人の心も読む、神様に祀りますのでどうかご勘弁を」と謝り、さっそく神棚にオドデさまをお祀りした。

この話は村中にすぐに広がり、村の人たちは一目拝みたいものと集まってきた。オドデ様は神棚の上で人々を前にし、「あしたの朝は晴れるドデンドデン」と言った。するとその通り、翌朝は雲一つない日本晴れになった。「では、晩方はどうであんすべが」とおそるおそる伺いを立てると「晩方は雨、ドデンドデン」と答えると、夕方にはオドデ様の言う通り雨がザァーザァーと降った。

これなら占いもできるだろうと、名主は立て札を立て、紋付き羽織り袴姿で、新しくつくった賽銭箱の横にどっかりと座った。占いがあまりにもぴたりと当たるので、賽銭箱はすぐに一杯になり、大繁盛となった。欲が深い名主は賽銭料を値上げし、今度は大きな賽銭箱を用意し、ジャランジャランとお賽銭を鳴らしては、ほくほく顔だった。

ところが、その銭音を聞いて、天井ばかり見上げていたオドデ様は、珍しく下を見下ろし、賽銭箱を抱えた名主の前にはいつくばっている参詣人を見て、「シランシラ ン、ドデンドデン」と叫びながら、折爪岳の方に飛び去ってしまった。名主は「おらの銭箱がにげるー、オドデ様が飛んでいくー」と追いかけたが、もうその時は、オドデ様は森の向こうに見えなくなってしまった。

オドデ様は飛び跳ねて、牛番をしている若者の所まで来ると「お前はええ奴じゃ、お前におらの不思議を授けてやる、ドデンドデン」と言ったかと思うと、若者の前で石になってしまった。
欲のない若者は不思議な力をもらっても、そのまま一生牛番で通し、一度も不思議の力を試す事はなかった。今でも折爪岳の奥深くから、オドデさまらしき声が聞こえると言われている。

折爪岳山腹付近は、豊富な湧き水とそれに続く沢沿いにブナやナラの木があり、東北でも有数の「ヒメボタル」の生息地になっており、季節にはヒメボタルが明滅しながら輝く幻想的な光の舞いを見ることができる。もしかすると、オドデ様の声も聞くことができるかもしれない。