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昔、穴薬師の一帯は、湖沼地帯だったと伝えられ大きな沼があり、かつて穴薬師は浪打薬師とも云われていた。

この地の里人の多くは、ささやかな漁をいとなみ生業としていた。この里に、親孝行な若者が居て、病気の父親と二人で、その日暮らしの貧しい生活をおくっていた。

ある寒い冬の日、若者がいつものように漁に出掛けたが、その日はどうしたことか一匹の魚も獲れなかった。家では病気の父親が帰りを待っていると思うと、若者は途方にくれるばかりだった。

日は暮れ始め、若者は仕方なく帰り支度を始めた。すると沖合いにピカッと光るものが見えた。急いで小舟を引き返し、恐る恐る近づいて見ると、それは一個の大きな貝だった。若者はそれを手にすると、急いで家に帰り、家で病に伏せっている父親に食べさせようとした。しかしその貝は、堅く閉ざしてなんとしても開けることができなかった。

思案のあまり、里に住む行者に尋ねたところ、この貝は、仏様が若者の日ごろの孝養心をほめ、下されたもので、七日七夜の行を施してやると言う。行者は一心に経を念じたところ、満願の夜、堅く閉じていた貝の蓋は開き、中から黄金燦然と輝く薬師如来像が現れた。そして、それ以来、不治の病と思われていた父親の病気が次第に良くなっていった。

このことを聞きつけた里人達が、病気や心配事で願をかけるとその霊験はあらたかだった。里人達は、石窟を掘り、この薬師如来像を岩に刻み、篤く崇敬したと伝えられる。

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