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青森県七戸町字七戸

震災前取材


七戸城址の二の郭西側に「姫塚」と呼ばれる塚があり、七戸家国の姫が葬られた地と伝えられる。

七戸城主七戸家国には稲姫という美しい姫君がいた。この当時は、南部宗家の後継を巡って、南部一族は南部信直と九戸政実の勢力が二つに分かれ、激しく争い、世情は混沌としており、稲姫にも護衛がつけられることになった。

城下の杜氏の家に、辰之丞という若者がおり、身分は低いが眉目秀麗で剣の腕が立ち、学問をよくし、また竜笛を吹いては並ぶものがなかった。この辰之丞に白羽の矢が立ち、稲姫を守護することになった。辰之丞は、度々竜笛を吹き稲姫の寂しさを慰めたりしていたが、いつしか互いに惹かれあうようになった。

しかし、そんな時に稲姫に縁談が持ち上がった。父の家国は、九戸政実とともに南部信直と戦うことを決し、周辺土豪勢力を取り込もうとしていたが、その中の向坂某が稲姫を見初め縁談を持ち出した。向坂の勢力は大きかったが、その性格は粗野で粗暴であり、父の家国も乗り気ではなかったが、その勢力は取り込む必要があった。

あるとき、家国はこの向坂を城に招き宴をもようすことになり、稲姫にも同席を命じた。稲姫はこのときすでに、辰之丞と翌日には城を抜けて夫婦になることを約していた。宴が進み酒がまわると、向坂は姫に対して無礼な物言いとなり、挙句には狼藉に及ぼうとした。稲姫はこれをかわし自室に篭り、辰之丞の迎えを待った。しかしこの若い二人の企ては家国の知るところとなり、辰之丞は刺客を立てられ、稲姫の許に向う途中襲われ、4人の刺客の内3人は倒したものの、ついに力尽きて討たれ、野辺の露と散った。

稲姫はこれを知り、嘆き悲しみ、雨のしんしんと降る夜、白装束を身に纏い毒を仰いだ。姫の屍は城の片隅のこの地に埋められたが、雨や風の夜には、松の木の間に姫の美しい姿が現れると云う。

その後、七戸家国は、九戸政実とともに南部信直が引きこんだ奥州仕置軍の大軍と戦い敗れ、七戸氏は滅亡した。