岩手県花巻市

2014/05/09取材

 

 

岩手県には、世界的に非常に珍しい、枝葉の垂れ下がった「南部しだれ桂」がある。この地のしだれ桂は、岳の妙泉寺の境内に、一本だけ生息している。

 

妙泉寺では、お盆が近づくと、桂の葉をとって干し、粉末香にしてその年に使う分を作るのが慣わしだった。

昔、いつものようにお盆も近づいてきたある日、和尚は寺の小僧に、境内にある桂の枝を切るように言いつけた。ところがこの桂の大木は、毎年枝を切るので、高いところにしか枝は残っておらず、小僧は梯子をかけて枝を切ろうとしたが、足を滑らせて、枝を手にしたまま、地面に堕ちて気絶してしまった。

この気絶した小僧の枕元に、早池峰山の女神の瀬織津姫が現れて言うには、「水無沢に参道から少し入った岩のくぼみに、一本の枝の垂れた桂を育てておいた。それを寺の境内に移して植えるがよい。そうすれば枝を採るのに危ない目にあうことはない」と語った。

小僧が目をさましてあたりを見回したが、誰もいない。不思議なことがあるものだと、その出来事を和尚に話すと、「それは誠にありがたいことだ」といって大変喜んだ。

和尚と小僧は、翌朝早く出かけてみると、神様のお告げの場所に、お告げの通りの桂の木が一本あった。二人はこれを寺の境内に移し替え、それからは毎年たくさんのお香をつくることができたという。

この地のしだれ桂は各地の寺院などに分けられ、「南部しだれ桂」の原木になったと云う。