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秋田県東成瀬村岩井川字合居川

2016/07/29取材

 

天正の滝は、焼石岳から流れ出る合居川の滝で、その名の由来は天正年間(1573~92)に発見されたことによるとされる。落差はおよそ20mで、水量は豊富で、まっすぐに落下する見事な滝である。周囲は自然公園として整備されている。

応永21年(1414)、鎌倉北條時行の遺臣の高階大次郎通治が、一族郎党70余人と共に出羽の飛島よりこの滝の下流の入道森の馬場に、四年ほど隠れ住んだ。この滝の辺りには巨大な「主」が住んでいるという話が古くからあった。大次郎の弟の小次郎通吉は、ことのほか釣が好きで、この話を聞きつけ、毎日釣りに出かけていた。

しかし小次郎が釣ってくる岩魚は、毎日同じ数で、不思議に思った小次郎の妻は、ある日夫のあとをひそかに追ってみた。小次郎は、滝から流れ出る清らかな水をたたえた沼のほとりで、どこからともなく現れた美しい女と筏に乗り釣りを始めた。その様子はいかにも睦まじげで、妻はこれを見て嫉妬の情から思わず大声を上げ、夫の不実をののしった。小次郎はおどろき、その美女となにごとか言い交し、抱き合ったまま沼に身を投じ、再び浮かんでくることはなかった。里人は、その美女こそ「主」だったと噂し、その沼は「小次郎沼」と呼ばれるようになった。

その後、天正の頃(1573~91)増田城主の土肥次郎が、この沼の水を沢へ切り落させ、「主」を捕えようとしたが、水と共に流れくだる岩魚は、悉く小蛇と化し、主を捕まえることはできなかったという。

この天正の滝は、この「主」の伝説の故か、法体の滝や役内川、すずこやの森などともに映画「釣りキチ三平」のロケ地にも選ばれた。