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宮城県石巻市広渕女形一

震災前取材

この井戸は昔、都からきた女性が身投げした井戸と伝えられ、後から尋ね追ってきた人がこのことを聞いて井戸を覗くとそこに女性の影が見られたという。その後、この家では何か変わったことがあれば水の色が変わり、井戸替えをすれば凶事が起こると言い伝えられた。

また、次のような話もこの地には伝わっている。

昔、この井戸のある裏手の高台に若い夫婦が住んでいた。あるとき戦があって、この家の男もその戦にかりだされることになった。この男は残る女に、はるかかなたに見える海に浮かぶ岩を指し、「あの岩を白波が越すようであれば、自分は討ち死にしたものと思え」と言い残して出陣した。

女は幾日も彼方の海を見ながら夫の帰るのを待っていたが、ある日、大風が吹いているわけでもないのに、彼方の海に白波が立ち、それがあの岩を越えた。これは白鷺の群れだったのだが、女は夫は討ち死にしたものと嘆き悲しみ井戸に身を投げてなくなった。

程なくして男は戦から無事に戻ったが、すでに妻はこの世のものではなかった。男は嘆き、妻が身を投げた井戸をのぞくと、井戸底の水面には自分の顔ではなく妻の顔が写って見えたという。