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福島県猪苗代町長田字北烏帽子

 

昔、この近辺の杉林の近くで、時折子供を抱いたお化けの「おぼだき」が出たと云う。

夜遅くここを通ると、髪をふりみだした女が幼子を抱いてあらわれ、「髪を結ううち、この子を抱いてくれ」と頼む。しかし多くの者は驚き逃げ帰ってしまった。

ある夜、一人の気丈な男がここを通った時、このおぼだきがあらわれ、子供を抱いていてくれるように切々と頼む。男は一瞬ひるんだが、女が哀れにも思い、気を取り直して子供を受け取った。月もないのにあたりは薄明るく、女の姿も子供の顔もよく見えた。子供は意外にかわいい子だったが、しかし化けものの子だから喉に噛みつかれるかも知れないと考え、男は腹合わせではなく前向きに背中を抱いた。

子どもは男の羽織の紐をいじって遊び始め、男はそのまま遊ばせておいた。子供は2本の紐の先を合わせようとするが、なぜかうまく合わず、短い方を強く引くとプツンと切れてしまう。子供は、切れた紐をつけなおし、また2本のひもの先を合わせようと引っぱるがやはり上手くいかず、夢中になって遊んでいる。いつもなら同じ長さの紐なのに、今夜に限ってどうしたことか、男は不思議に思い子供の手もとを見つめていた。

その間、女はゆっくりと手を動かし、髪をくしけずり結っていた。どの位時間がたったのだろうか、東の空がほんのりと白みかけたころ、女はようやく髪を結い終わった。女は男から子供を受け取り抱きとると、喜んだ様子で男を見つめ、そして「やっと思いがかない髪をきれいに結うことができました。お礼にこれを差し上げます」と言い、男に宝物を渡し朝の薄暗闇の中に消えて行った。

この後、男はこの辺りでは有名な長者になり、それ以来、この地方では、羽織の紐は必ず両方同じ長さにはしないと云う。

この「おぼだき」は、出産の時に死んだ女の霊と考えられており、この地ではおぼだきが墓地から外へと出ないように、葬送が終わるとすぐに、墓地にかかる橋を外しておいたという。現在はその橋もコンクリート橋になったため、常に は厳重なクサリが掛けられており、哀れな霊を慰めるために「おぽだき地蔵」か祀られている。