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北朝鮮の核ミサイルや中国の東シナ海や南シナ海への軍事進出により、他国の「公正と信義」を信頼することを前提とした日本の平和主義は、周辺諸国の暴力的な恐喝の前には、現実的ではなく、いわば独りよがりの幻想にすぎないことが露呈している。ここでは同じ平和主義ながら、重武装の永世中立国であるスイスを例に挙げて考えてみる。

スイスは、約4千名の職業軍人と約21万名の予備役から構成されるスイス軍を有している。国民皆兵が国是であり、20歳から30歳の男性に兵役義務があり、女性は任意である。スイス男性の殆どは予備役軍人で、予備役を離れるまでは、各家庭に自動小銃が貸与されている。有事には焦土作戦も辞さず、徹底した抵抗を行う毅然とした国家意識を表明している。国際連合平和維持活動(PKO)へは積極的に参加しているが、決して武力行使をせず、PKOでは武器を用いない人道支援に徹している。

山がちの国土は、岩山をくり抜き軍事基地が建設されているなど、高度に要塞化されている。またスイス軍の施設と公立の学校については、核戦争への備えとして核シェルターが常設されており、政府は食料を計画的に備蓄している。民間でも、任意でシェルターを装備している企業や個人も多く、人口比率で100%のシェルターが設置されている。

軍隊の装備は防御的装備が主で、他国を攻撃しうる戦力的能力は有しない。中立であることから、かつては兵器の国産化にも取り組み、戦車や航空機も国産だったが、現在は開発費用の高騰と技術的課題のため縮小せざるをえなくなった。それでも小火器や装甲車は国産で、その性能は高く、世界中に輸出されている。

スイスは日本と同様に資源が乏しい国であるため、他国との通商は生活権の行使であり、中立義務に違反するものではないとし、国民の生活を守るために必要な資源の輸入などをどの国とも行い、国益を確保している。

スイスの安全保障戦略は、拒否的抑止力である。スイスの存立が絶望的となった場合は、放火や爆破等の焦土作戦を実施し、侵略者に一切の戦利品を与えない。そしてスイスを侵略することによって得られる利益よりも、スイス軍の抵抗や国際社会からの制裁によって生じる損失の方が大きくなる状況を作り出すことにより、侵略を未然に防ごうとするものだ。

現在日本は、日米安全保障条約により、アメリカの核の傘の下にあり、それを安全保障上の基本戦略としている。しかし「世界の警察」としてのアメリカは、かつてほどの国力はなく、日本は自国の防衛をアメリカ頼みにだけはできない状況になりつつある。当然その多くは日本自身が負わなければならないし、自主防衛は独立国として当然のことである。

現在の東アジア情勢の中で、日本はこの重武装の永世中立国家であるスイスの「平和主義」に見習うことは多いと考える。