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この事態に、防衛大臣は海上警備行動を発令し、自衛艦を出動させようとしたが、会期中だった国会は大荒れになった。このごに及んでも野党の論調はこれまでと変わりばえするものではなかった。つまり「自衛艦を出動させれば中国も軍艦を出動させ、全面戦争になる恐れがある、」「平和的外交努力で解決すべきだ、」「憲法9条にてらし武器使用をするべきではない、」などなどだった。

反対派の主張の中には、尖閣諸島は「互いに領有の主張を取り下げ、共同利用を協議する交渉に入るべき、」とするものもあり、一定の比率の支持を得ていた。一方では、尖閣諸島問題で中途半端な妥協をすれば、この先、中国は第一列島線上にある石垣島や宮古島、最終的には沖縄本島の領有権まで主張し始めるだろうとの意見もあり、「中国の目論見は断固阻止すべき、」との意見も多かった。しかしそれでも、一党独裁国家の中国が、国家として「信義と公正」が期待できる国かどうかでは、圧倒的に信頼できないとするものが多かった。

国内のその議論とは別に、日本の政府部内でも、中国との武力衝突に対しては慎重論も多かった。それは、日米安保条約でのアメリカが、信用できるかどうかを危ぶんでのものだった。中国は、以前より「新型大国関係」をアメリカの「親中派」に対して、これまで水面下で盛んに働きかけており、「中国はアメリカとの全面対決を望んではいない、」旨を呼びかけていた。しかしそれは、逆に言えば、東シナ海と南シナ海での、中国の「核心的利益」を認めなければ、米中は全面対決に到る可能性があるという脅しでもあった。中国はアメリカの「親中派」に対し、かねてより盛んにロビー活動を行っており、親中派の政府高官からは、日本に対して、尖閣の中国との「共同利用」が水面下で提案されていた。

日本とアメリカは秘密裏に連日議論を重ね、日本は尖閣防衛に徹し、戦線の拡大は行わないこと、アメリカは中国による核攻撃に対しての先制攻撃も含めての抑止力を行使することを約した。しかしこれは、尖閣海域の局地戦では、アメリカは主体的な武力行使は行わないということであり、日本の領土防衛にあたっては、日本が主体的に戦わなければならないことを意味しており、それは当然のことでもあった。

それでもアメリカには別の考えもあり、このところの中国のあからさまな南シナ海への軍事進出、新植民地主義ともいえる経済進出、そして太平洋への軍事進出の夢想を徹底的にたたき、あわよくば中国国内の内部崩壊をさそうというものだった。尖閣問題と、南シナ海での中国の軍事化は、基本的には同一問題であり、尖閣を巡る中国の出方次第では、アメリカは、南シナ海の中国軍事基地を、一気に殲滅するというものだった。

日本国内で小田原評定が続く間に、魚釣島にはすでに200人ほどの「中国漁民」が上陸し、仮設の住居が建設され、灯台も建設されていた。このままでは竹島同様、中国の実効支配が確立される状況になり、国内世論も「尖閣奪還」に大きく傾斜していた。5月20日、中国海軍が尖閣に向けて動いたという情報を得た日本は、野党の反対を押し切り、自衛艦を出動させた。

アメリカも有事に備え、空母ロナルドレーガンを中心とした第七艦隊を急遽沖縄方面へ出動させ、B52爆撃機を飛行させるなど、中国を牽制したが、日本政府に対しては、「中国漁民の尖閣への上陸は、未だ民間レベルのことであり、日本の警察力で解決すべき問題であり、米軍が直接関与することはできない」と申し入れしていた。

海上保安庁は、「しきしま」「あきつしま」など12隻の巡視船を派遣し、海上自衛隊は第五護衛隊の「こんごう」を中心とし、護衛艦4隻と、輸送艦「おおすみ」を中心とした艦隊が、巡視船の直接的な護衛にあたった。またヘリ空母「いずも」を中心に、第一護衛隊、第四護衛隊、第八護衛隊は、中国海軍と対峙する主力部隊として尖閣海域に向かった。もちろん潜水艦群と航空自衛隊もこれをバックアップしていた。また「おおすみ」には、上陸作戦に備え、水陸両用部隊の「バラモン部隊」の姿があった。