厳冬期金山町の新月

山形金山の地は、以前この地の遅い春を訪れ、地元の方の底なしの親切に触れて、その景観とともに忘れられない地となった場所だ。雪の多いこの地を、厳冬期に訪れたいものと思っていたが、なかなか勇気が出ず、寒さが少しゆるんだ時期に思い切って、出張の予定を少し変更して寄り道することにした。

日の出前だいぶ早く新庄を出て国道13号線を北上する。圧雪状態を覚悟していたが、しっかりと除雪されており、路面は乾燥状態で、愛車ロシナンテⅡを快適に走らせた。途中、一面の雪景色の中に上弦の新月が昇ってくることに気がついた。この新月を、うまいロケーションで捉えたいものと気が急いた。

金山町に入る。この日の目的の竜馬山方向に車を向けた。すでに月はだいぶ高くなっている。空も少ししらみ始めている。竜馬山の近くで車を止めて三脚を準備するのももどかしく、カメラを固定し月に向けた。ファインダーの中に雪景色の中の上弦の新月をとらえる。

まったくの静寂の世界で、しかしその静けさが大気にピリリと緊張感を与えているかのようだ。寒さはむしろ心地よかった。気が済むまで新月を撮影した。月と反対側の竜馬山は、日の光がまだ届かない中で、わずかな新月の光をうけて、青々とその稜線を浮かび上がらせている。日の光が差すまでのわずかな時間、竜馬山の麓で日の出を待った。

雪原を染める、神室山の日の出

竜馬山麓に日が差し始めた。じき日の出だ。撮影ポイントを探し車を走らせた。気はせくが、撮影にはまだ光が足りなかった。車を走らせているうちに、神室山を臨める場所に出くわした。神室山頂の右尾根付近に強い日の光が満ちている。まもなく日が昇るようだ。

すぐに車を止めて靴紐を締めなおし、カメラの準備を始めた。もう三脚はいらないようだ。ファインダーから神室山をのぞき構図を考える。川の堤防らしい雪の盛り上がりの近くに、半ば雪に埋もれた古い碑がある。神室山は本来信仰の山だ。この碑を入れて神室山の日の出を撮ろうと考えたがファインダーにうまく収まらない。

この古碑を収めるべく雪の盛り上がりに踏み込んだ。堤防上には点々と、狸かウサギか、なにかケモノの足跡がある。足跡をたよりに堤防上にのぼり、そこから静かに古碑の前に回りこんだ。とたんに表面の凍った雪が抜けて、片足を腰あたりまで踏み込んでしまった。残った片足で脱出するべくもがいたが、こちらも踏み込んでしまった。刻々と明るさは増し、やむを得ず古碑はあきらめ、両足腰まで踏み込んだ奇妙な姿のまま最初のシャッターを切った。

見ると、堤防の先に、小さな冬枯れの雑木林がある。これを構図の中に収めることにし、堤防上を近くまで進もうと七転八倒しながら雪の足かせを抜け出し進んだ。堤防上に上がるために雪の斜面を二三歩進んだ。しかしまた雪の天井が抜け、こんどは片足をとられたまま頭を下にあおむけにひっくりかえった。また七転八倒して起き上がり、考えてみれば当然だが、狸やウサギのように身軽には雪の原に踏み出せない。結局あきらめた。

すでに雪原と神室山は神々しいばかりに輝いている。夢中でシャッターを切り続けた。山の端から太陽が顔を出す直前のその一瞬、雪原は朱に染まった。この光景を見ているのは、世界中で恐らく自分一人だろう。なんという贅沢なことか。数十秒後には、雪原は純白の世界に戻っていった。

雪に埋もれた麓から聳える、竜馬山

早朝の神室山を臨む雪原で、贅沢な静寂さを、一人ばたばた乱してしまったが、それでも気持ちは日の出の朱に染まった大気を吸い込み、充実した暖かさに満ちていた。すでに雪原は本来の純白にかわり、おだやかに広がっている。

この地への途中、日の出前の明るさの中で見つけていた竜馬山のポイントへ移動した。間近に見る竜馬山は、考えていたほどには雪を被ってはいなかった。その急峻な岩場は、厳冬期の雪をも寄せ付けず、麓に黒々と針葉樹の林を抱え屹立していた。ゆるやかな波のように広がる白い雪原の中に、雄大に聳え立っている。

この地の古代の名称の「ひらほこ」は、先住民の蝦夷が、切り立った岩場を表す言葉から来たともいわれ、その後も長く、神室山とともに畏敬の念を持って仰がれていた。そしてその畏敬の念は、この地に竜馬が棲むという伝説を生み、今もその竜馬を見たという話が伝えられる。おそらくは、白い竜馬は、この日のような晴れた早朝に、切り立った岩場に吹き付ける強い風の中、白い雪を竜巻のように巻き上げ天に上るのだろう。

日はすでに高くのぼり、空は青く澄み渡り、雪原は白く波打っている。早朝の日の光はわずかに赤みをおび、竜馬山の岸壁はやわらかい日差しで覆われている。一通り写真は撮り終えた。白昼の光の中で、また夕暮れの光の中の竜馬山も収めたかったが、仕事を抱える中でそういう訳にもいかない。後ろ髪を引かれる思いで竜馬山を後にした。

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