2015/07/26 宮城県仙台市太白区

 

弘法大師の水に関わる伝説は、全国各地に散在する。この坪沼の伝説も、その中でももっとも多く見受けられる、「弘法が杖を突いたら水が湧いた」とするものだ。

弘法大師に関する伝説は、全国至る所にある。中でも水に関するものは多く、この地と同様の「杖をつくと泉が湧き…」といった伝承は、日本全国で千数百件にのぼるといわれている。それらの伝説は、かつて高野聖が日本全国を勧進して廻ったことと関連しているのだろう。

しかしこの地の伝説で特異なことは、この清水が地下の深いところで海に通じているというところだ。この池に投じた杵が、松島の五大堂の橋の下に浮かび上がったと云う。

恐らくは、仏教説話的な話の断片が伝説になったものだろうが、このような他愛もない伝説を、つまらないものとして捨て去るのではなく、この地ではわざわざ碑まで立てて大事にしている。

このような、人知では計り知れない不思議なものを、大仰に祀り立てるわけでもなく、卑下するわけでもなく、一定の敬意をもって代々素朴に伝えていく、もしかするとこれは日本人の国民性なのかもしれない。

田圃の中の清水は、決してきれいなものではないし、飲み水として使用できるようなものでもないようだ。しかし、この地の人の心を、少しだけ見たような気がした。