2010/03/08

 

竜馬山麓に日が差し始めた。じき日の出だ。撮影ポイントを探し車を走らせた。気はせくが、撮影にはまだ光が足りなかった。車を走らせているうちに、神室山を臨める場所に出くわした。神室山頂の右尾根付近に強い日の光が満ちている。まもなく日が昇るようだ。

すぐに車を止めて靴紐を締めなおし、カメラの準備を始めた。もう三脚はいらないようだ。ファインダーから神室山をのぞき構図を考える。神室山は本来信仰の山だ。川の堤防らしい雪の盛り上がりの近くに、半ば雪に埋もれた古い碑がある。この碑を入れて神室山の日の出を撮ろうと考えたがファインダーにうまく収まらない。

この古碑を収めるべく雪の盛り上がりに踏み込んだ。堤防上には点々と、狸かウサギか、なにかケモノの足跡がある。足跡をたよりに堤防上にのぼり、そこから静かに古碑の前に回りこんだ。とたんに表面の凍った雪が抜けて、片足を腰あたりまで踏み込んでしまった。残った片足で脱出するべくもがいたが、こちらも踏み込んでしまった。刻々と明るさは増し、やむを得ず古碑はあきらめ、両足腰まで踏み込んだ奇妙な姿のまま最初のシャッターを切った。

見ると、堤防の先に、小さな冬枯れの雑木林がある。これを構図の中に収めることにし、堤防上を近くまで進もうと七転八倒しながら雪の足かせを抜け出し進んだ。堤防上に上がるために雪の斜面を二三歩進んだ。しかしまた雪の天井が抜け、こんどは片足をとられたまま頭を下にあおむけにひっくりかえった。また七転八倒して起き上がり、考えてみれば当然だが、狸やウサギのように身軽には雪の原に踏み出せない。結局あきらめた。

すでに雪原と神室山は神々しいばかりに輝いている。夢中でシャッターを切り続けた。山の端から太陽が顔を出す直前のその一瞬、雪原は朱に染まった。この光景を見ているのは、世界中で恐らく自分一人だろう。なんという贅沢なことか。数十秒後には、雪原は純白の世界に戻っていった。

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