2013/05/16

 

歴史散策⇒半子町の藤

ローカルニュースで、子平町の藤がそろそろ見頃であることを報じていた。この時期の歴史散策で、自生の藤の花は各所で見られ、特に珍しいものではなくこれまで訪れてはいなかった。しかし調べてみると、この藤は伊達政宗が朝鮮半島から持ち帰ったものだと言う。

そうなれば話は別だ。早速カメラを持って訪れた。訪れた先は、かつては伊達家御用の大工棟梁をしていたという個人のお宅である。この藤の開花時期だけ庭を公開しているらしい。ありがたいことだ。

門は開いており、恐る恐る入ると、この家のお嫁さんだと言うきれいな女性が庭先で出迎え説明をしてくれた。最近の仙台は、先人の積み上げた歴史に敬意を払うことを忘れ、古いというだけで否定し、「経済効果」とやらだけを追い求める喧騒の町になってしまったと思っていた。しかしこの仙台の町中にも、花の香りを独り占めすることなく、多くの人と純粋に花を愛でようという人がまだいるのだと言うことに少し感動した。

庭一杯に藤棚が広がり、古株から四方八方に延びた枝が、数え切れないほどの花房を下げている。花房は一際長く、目の前の花房からは、自生の藤とは違う甘い香りが漂っていた。この香りに、古い昔を思い出した。

私が小学生の低学年の時期に、理由は忘れたが母に強くしかられ、外で大泣きしていたとき、近所の、あまり評判のよろしくないバアちゃんが、前掛けのポケットから藤色のドロップキャンディを取り出し私にくれた。そのときそのバアちゃんは、「6月になると、こんな色の藤の花が咲くんだよ」と言った。そのキャンディの香りがまさに、この藤の香りだった。

思いもかけずこの「子平町の藤」は古い昔を思い出させてくれた 。それは恐らくは藤の香りだけではなく、この家の方々のゆったりとしたやさしい思いと、それを愛でる人々の笑みが思い出させてくれたのだろう。